11月25日、快晴。外の肌寒さは嘘のように、さいたまスーパーアリーナは白熱していました。 「ゼッケン二十九番、船先 雄!」 張りつめた雰囲気、大きい声援。そして試合が始まり、わずか数秒の事でした。 「ピッッ!」 笛が鳴り響き、相手選手が倒れていました。上段回し蹴り、一本。会場からは拍手と歓声が上がり、奈良支部は最高のスタートをきりました。 第5回全日本空手道選手権大会、ついにこの時がやってきたのです。奈良支部代表として、市川 雅也支部長、船先 雄選手、市川 典英選手が出場されていました。又、今大会には日本各地の強豪だけでなく、体格のある海外の選手も多数出場していました。韓国、アメリカ、イギリス、ポーランド、スペイン、そして近年驚異的な成長をみせているロシアと、激戦が予想されました。 そしてそのロシアの選手が市川 雅也支部長初戦の相手でした。「空手母国 日本」である以上、外国勢に負けることは許されない、セコンドをさせて頂いた私にはその緊張感が耐え難いほど伝わってきました。 舞台に両選手が上がり、そして 「はじめっ!」 ロシア選手の特徴は、コンパクトかつ、力強い攻撃、そして屈強な精神力です。初戦は思うように体が動かないものですが、序盤から激しい打ち合いとなりました。次第に市川支部長が的確な攻撃でダメージを重ね、気迫の真っ向勝負で勝利を収められました。 続く市川 典英選手もイギリスの選手相手に効かせる組手を展開し、相手をもう少しでダウンというところまで追い込んでいました。奈良支部は見事に全員初戦を勝ち上がりました。 《オリンピックは参加する事に意義がある》 とよく言われますが、この空手の世界は別物であると思います。倒さなければ倒される、《試合》でなく《死合》、特に奈良支部の選手達の闘いはそれを感じさせるものでした。 そして2回戦以降も強豪選手との試合が続き、市川 典英選手はスピード、スタミナのある中澤選手を相手に再延長の接戦の末、惜しくも判定で敗れてしまいました。しかし、次につながる白熱した闘いでありました。 一方、市川 雅也支部長と船先 雄選手は有力選手達を相手に自分のペースを崩すことなく、相手を圧倒して勝利を重ね、準決勝戦へと進んでいきました。素手、素足で闘うこの大会は勝ち上がっていく度に疲労、ダメージが蓄積され、歩くのも苦痛になってくる程ですが、両選手とも勝ち上がっていくと同時に調子が上がっていくようでした。そんな中、市川支部長の腫れ上がった足を冷やし、スネに出来た血の塊を下へ押し流す作業を通して、私は改めて試合の凄みに鳥肌が立ちました。 そして休息もつかの間、準決勝戦が始まりました。第一試合は、船先選手とロシアから来たコスモブ選手の一戦。船先選手は前蹴りでリズムを作り、コスモブ選手は突きを主体として、両選手が時に出す大技に観客席はどよめいていました。会場の方も奈良から駆けつけてくれた応援の方と海外から来た応援団とで一歩も譲らない戦いとなり、接戦はついに再延長戦にまでもつれこみました。死力をつくした再延長戦でも決着がつかず、体重判定でも有効差が無かった為、最初に行なった杉板による試割の総数に勝敗が委ねられました。 「発表します!スレイマン・コスモブ選手…17,5枚…」 皆固唾をのみました、 「船先 雄選手…18,5枚!」 ついに死闘を船先選手が制し、第二試合の市川支部長と前回優勝者である藤井選手の一戦へと続きました。今日の藤井選手の動きは好調そのもので、準々決勝でも相手をマットに沈めてきたところでした。 市川支部長は尋常でない緊張感をまとって舞台へ向かっていかれました。 「構えて…、始めっ!」 序盤から打ち合いとなりましたが、藤井選手の動きに先程までの勢いが感じられません。表情もどこか冷静さを欠いていて、間合いに入りづらい様子でした。顔面殴打で減点をとられる場面もあり、市川支部長の並々ならぬ覚悟にのまれている。そんな気がしました。市川支部長が先々攻撃を打ちこみ、相手の突きが大振りになったところへ確実にカウンターを決める。判定は見事市川支部長の勝利でした。 奈良支部同志による決勝戦。奈良支部の皆は歓喜に包まれていましたが、市川支部長、船先選手と、殺伐とした雰囲気で決勝の舞台を待っておられました。《相手が親であっても、師であっても全力で倒しにいく》それが極真の教えであり、お互いに手の内を知り尽くしている以上、一番手強い相手になるという事を覚悟されていたのだと思います。 試合はお互い最後の力を出しきっての闘いとなりました。満身創痍であっても、念願の優勝を遂げる為にはこの一戦に勝たなければなりません。両陣営とも嗄れた声を張り上げて声援を送っていました。そしてラスト20秒、お互い渾身のラッシュを打ち込み本戦が終了しました。 判定3−0、市川支部長、極真館史上初の全日本大会二度目の優勝が決定しました。その瞬間、市川支部長、船先選手は涙をうかべておられました。練習から一緒にさせて頂いた私には、限られた時間の中での過酷なトレーニング、それからたくさんの背負われているものと、厳しい状況の中での優勝、準優勝であったように思います。私も胸が熱くなりました。 優勝者インタビューにて、市川支部長は次の世界大会への抱負を語られ、「声援をくれた皆さんのおかげで優勝できました。」と言っておられました。きっとこれが市川支部長の強さの源であり、奈良支部の結束力を高めているのだと思います。『市川 雅也支部長・優勝、船先 雄選手・準優勝、市川 典英選手・ベスト16』という結果は多くの人に感動と勇気を与えられ、選手たちはこれからも更に強くなっていかれる事と思います。私も感動を頂き、勉強になることがたくさんありました。市川支部長の下、セコンドをさせて頂いた事を大変光栄に思います。ありがとうございました。押忍! 戦地と化していた会場は静けさを取り戻し、選手達はいつもの穏やかな表情へと戻り、さいたまスーパーアリーナを後にしました。
レポート:信田誠一